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桜とHM-01 |
私の生活圏でまともに懸垂できる場所はたった一箇所しか無い。まともでなければなんとか懸垂できる場所は無くはないが、まともに懸垂できる場所は誇張でもなんでもなく一箇所であり、それがこの
日都産業製HM-01が設置された公園である。これは素晴らしい遊具であるが欠点もある、というのが数年間使い続けての印象である。利点は何と言ってもまともな懸垂ができるということ、そして欠点は鉄棒がないことだ。公式の解説によればHM-01は九つの機能を併せ持つ複合遊具である。以下に遊具の説明板および公式サイトからの引用を載せる。
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吊り輪、肋木、ネット、ジャンプタッチの説明 |
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平行棒、棒跳び越し、雲梯、攀登棒、バランス台の説明 |
- つり輪: 懸垂運動で腕力や腹筋を向上させます。
- 肋木 : 登はん(クライム)で握力、腕力、脚力を向上させます。
- ネット : 登はん(クライム)で握力、腕力、脚力とバランス感覚を向上させます。
- ジャンプタッチ : ジャンプを繰り返すことで脚力や腹・背筋を向上させます。
- 斜平行棒 : 懸垂運動で、主に腹筋を鍛練します。
- 棒跳び越し : ジャンプを繰り返し脚力と瞬発力を養います。
- ラダー : 繰り返し行えば腕力や腹筋の鍛練につながります。
- はん登棒 : 登はんで腕力、握力、脚力が向上します。
- バランス台 : 平衡(バランス)感覚を向上させます。
メインとも言えるのは1の吊り輪と7の雲梯であろう。雲梯は鉄棒で行う通常の懸垂の他にもニュートラルグリップで懸垂ができる。懸垂以外にも鉄棒でできる大抵の運動が可能だが、当然逆上がりなどは構造上不可能だ。雲梯の大変に優れた点は、複数の人間が同時に懸垂できる点で、向かい合わせで二人同時、側部にニュートラルグリップでぶら下がれば、6人かそれ以上いけるのではないだろうか。
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順手と逆手の中間、ニュートラルグリップ |
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雲梯の強みのひとつでもある |
吊り輪でやる懸垂は雲梯よりもきつく感じる。保持する部分が固定されていないからかも知れない。だがスキンザキャットやネガティブフロントレバーは吊り輪の方が楽にできる感じがする。ただ、吊り輪という運動器具は高さを調節できるという点が利点なのだが、遊具として吊り輪を設置するとどうしても高さ固定になってしまう関係上、吊り輪の良さの大部分が失われてしまっているのは残念である。高めの鉄棒に自前の吊り輪をぶら下げた方が何かと便利だしその逆は不可能なので、吊り輪部分は鉄棒でもよかったかも知れない。
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長さが固定された吊り輪 |
5の平行棒は非常に惜しい。ディップスをするには若干幅が広い。できなくはないが、棒の上でディップスのトップポジションに入った時に腕が地面と垂直になるぐらいの幅が理想的である。その方が大胸筋をより収縮できるからだ。僅かに角度がついて斜めになっているのもいただけない。斜め懸垂やストレートバーディップスがやりづらいからだ。設計者としてはこの平行棒でエルシットやスイングなどをすることを意図しているようだが、傾斜と幅がこれらの運動のやりやすさに寄与しているとは考え難い。ディップスをするなら隣にある滑り台の階段の手すりを使った方がよい。
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エルシット |
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エルシットはベンチの肘掛でも可能 |
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ディップス。やや広く感じる。 |
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ディップスには隣の滑り台を使うといい |
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手すりのこの部分の幅がディップスに最適 |
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ディップスをするのに具合がいい | |
忘れがちだが重要なのが8の攀登棒であり、これはフラッグの練習に活用できる。おそらくヒューマンフラッグと聞いて大多数の人が想像するであろうところのプレスフラッグは肋木と垂直の棒どちらを使ってもいいだろうが、棒を抱え込む必要のあるクラッチフラッグを行うには垂直の棒が必要である。雲梯の支柱を使ってもいいのだが、棒を胸にかかえ込む力や握力が十分育っていない状態なら、細い方がやりやすい。
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クラッチフラッグ |
6の棒跳び越しは無くてもいい、という印象を抱く人がほとんどだろう。公式サイトの解説画像も跳び越しというよりは上に乗って腕立て伏せのトップポジションのような姿勢をしている。しかしこの一見不要そうに見える角棒には裏機能があり、それは雲梯に手の届かない低身長の子供が雲梯に掴まるために、この角棒の上を歩いていくというものだ。設計者の粋な計らいと言えるかもしれない。
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雲梯に届かなくてもここを歩いていけばたどり着く |
2の肋木と3のネットはそもそもの機能がやや重複しているし、どちらかひとつあればいいだろう。肋木は三頭筋伸ばしやフラッグに使うこともあるだろうし、チェーン製ネットの部分は鉄棒にすべきだったと思う。
4のジャンプタッチは無くていい。わざわざ鉄を溶接して専用パーツを用意せずとも、このような機能が欲しいならシールを支柱に貼っておけば済むことだし、巻尺やメジャーがあれば樹木で十分事足りる。鉄棒は工夫でどうにかするには不可能なので、この部分もチェーンネット部と同様鉄棒にすべきだった。鉄棒なら複数あっても高さを変えれば十分意義は生まれるはずである。
9のバランス台は、個人的には無くていいが意外と使っている人が多い。実はこのバランス台で怪我をした事がある。バランスを崩して倒れたのではない。プッシュアップバー代わりにしていたら、真夏だったこともあり滝のようにかいた汗で手を滑らせて胸を打ち付けたのである。しばらくはなんともなかったのだが、徐々に打ち付けた胸とちょうど反対側の背中に違和感が出始め、違和感は痛みに変わっていった。アバラにヒビが入ったか折れたかしたのだと思う。外国の公園には足首ぐらいの高さの鉄棒があって、棒につかまって腕立て伏せができるようになっている。これを真似したのだが、がっちり掴むには太すぎるので、ここで腕立て伏せをするのはやはり危険かも知れないと思い、それからはブランコの柵を使っている。
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バランス台は握りこむには太すぎる |
ざっと各部の感想を述べたが、まとめると懸垂ができるのは最高であり、しかし鉄棒がないのは悲しい、というのがシンプルな感想である。ただし裏機能として鉄棒的な使い方ができる部分が限定的にではあるが、ないこともない。まず雲梯の縦棒に横桟の生えていない部分と、ジャンプタッチの高さ目盛りプレートの両脇の部分だ。だが両者どちらも手で握りこむには太すぎるので、真冬ならまだしも気温が上がってくると手汗で滑りそうになり大変危険である。よくよく考えた上で使用したい。
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ここを鉄棒として使えなくもないが、太い上に真下のバランス台が恐怖 |
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ここも鉄棒として使えなくは無いが、ジャンプタッチ用パネルのせいで狭い |
また平行棒の支柱の間になぜか雲梯の横桟と同じ太さの棒があるが、平行棒を使うと広く感じる幅が、鉄棒としては狭すぎる。
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平行棒はやや広く、鉄棒は狭すぎる |
それにつけても遊具を使用していると設計者があえて鉄棒を排除した意図のようなものを感じずにはいられない。なぜ鉄棒機能がないのか、謎は残されたままだ。